虎の背に揺られ、明が辿り着いたのは本堂の巨大な屋根の上だった。
眼下に広がるのは、デジタルノイズの海に沈んだ浅草寺の境内。そして、目の前には、黄金の鱗を不遜に輝かせるとぐろを巻いた「龍」が待ち構えていた。
龍は空を泳ぎ、明の耳元で毒を吐き続ける。
虎は一歩も引かず、ただ喉の奥で地鳴りのような唸りを上げた。
「……龍。騒がしい脅しが得意だな。小僧、その耳を信じるか、眼を信じるか。貴様の『心』をここで示せ」
殺気が、氷の刃となって明の肌を刺す。龍の理不尽な要求と、虎の絶対的な圧力。現実世界のいじめっ子たちとは比較にならない、巨大なパワーの衝突。
明は、答えなかった。
叫びもしなかった。
暴力が嫌いな彼は、龍の唆しにも乗らず、虎の殺気にも屈しなかった。ただ、静かに二人を見つめ、スマホを強く握りしめた。
「…………」
明の「深い沈黙」が、周囲のノイズを飲み込んでいく。饒舌だった龍がふと口をつぐみ、虎の殺気が霧のように消えていく。
風が止まり、世界の色彩が反転したかのように静まり返った。
沈黙を切り裂き、本堂の奥から「巨大な足音」が響き始めた。