夕暮れの浅草寺。朱色の門が西日に焼かれ、影を長く伸ばしている。
中学二年生の星野 明(ほしの あきら)は、喧騒から逃れるようにスマホの画面を見つめていた。
「……またか」
SNSには、クラスのいじめっ子たちからの心ない言葉が並ぶ。暴力が嫌いな明は、言い返すこともできず、ただ黙って画面をスクロールするしかなかった。
「何の通知だ……?」
明が呟いた瞬間、世界から音が消えた。仲見世通りの人波がピクセル単位で分解され、空が回路基板のような幾何学模様に染まっていく。
突如、本堂の影から巨大な黄金の塊が飛び出した。
それは、燃えるような眼光を放つ「巨大な虎」だった。
「グォォォォォォッ!!」
鋭い爪が明の喉元に迫る。
明は一瞬動けなくなり目を閉じようとした。
だがその時、明の意識が研ぎ澄まされた。虎への恐怖ではなく、嵐の前の静けさのような感覚。
彼は無意識に、滑るような足運びで虎の懐へと飛び込み、その強靭な背中を掴み、飛び乗った。
虎が笑った。人間の言葉を操り、虎は軽やかに重力を無視して五重塔の壁を駆け上がる。
「その度胸、悪くない。我が主様がお待ちだぞ!」
猛烈な風が明の頬を打つ。怖い。けれど、不思議と心は澄み渡っていた。
虎の背に揺られながら、明は初めて自分の中に眠る「何か」が目覚める音を聞いた。